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2026.07.30コラム

事業場外みなし労働時間制の対象に営業はなる?条件とみなし残業との違い

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「うちの営業は直行直帰だから、みなしで8時間」―この処理を何年も続けている会社は珍しくないかもしれません。

ただ、その営業社員は会社支給のスマートフォンを持ち、営業支援システムに訪問記録を入れ、日報も提出している。それでも「労働時間を算定し難い」と言えるのか。ここが、2024年4月16日の最高裁判決(協同組合グローブ事件)で改めて問われました。約10年ぶりに最高裁がこのテーマを扱い、しかも高裁に差し戻して適用の余地を残したため、いま判断が揺れている論点です。

この記事では、まず労働基準法38条の2の条文と、名前の似た「みなし残業(固定残業代)」との違いを切り分けます。そのうえで、対象になる条件----「労働時間を算定し難いとき」とは実務でどういう状態か----を最高裁2判例の比較で確かめ、職種ごとの使える/危ないの目安と、みなし時間の決め方で残業代がいくら変わるかまで見ていきます。

目次

1. 事業場外みなし労働時間制とは?労働基準法38条の2の仕組み
2. 適用の2要件と、通達が示す「使えない3つの場面」
3. 最高裁2判例で見る、判断の分かれ目
4. 職種・場面別に見る「使える/危ない」の目安
5. みなし時間の決め方は3通り──残業代がいくら変わるか
6. 見落としやすい4つの落とし穴
7.よくある質問(Q&A)
8.「勤労の獅子」でできること
まとめ



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1. 事業場外みなし労働時間制とは?労働基準法38条の2の仕組み

事業場外みなし労働時間制とは、労働者が事業場の外で働き、その労働時間を算定し難いときに、実際に何時間働いたかにかかわらず「所定労働時間だけ働いた」とみなす制度です。根拠は労働基準法38条の2。外回りの営業、訪問介護、出張、在宅勤務など、上司の目が届かない場所での勤務を想定しています。
厚生労働省の「令和7年就労条件総合調査」によると、なんらかのみなし労働時間制を採用している企業は15.8%。その内訳では事業場外みなし労働時間制が13.8%と大半を占め、専門業務型裁量労働制の2.1%、企画業務型裁量労働制の1.0%を大きく上回ります。事業場外みなしの適用を受けている労働者は全体の10.5%(みなし労働時間制全体では11.8%)。企業規模1,000人以上に限れば、みなし労働時間制の採用企業割合は27.0%に上ります。
つまり、この制度は「一部の特殊な会社の話」ではありません。ただし採用が広い分、要件を満たさないまま運用している例も出やすい制度です。

1-1. 「労働時間を算定し難いとき」だけに使える

条文を確認します。労働基準法38条の2第1項は、こう定めています。

  労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。

読み飛ばされがちですが、この条文の核心は「労働時間を算定し難いとき」の一言です。事業場の外で働いていること自体は、制度を使う理由になりません。外にいても、会社が労働時間を把握できるなら、この制度は使えない。判例で争われているのも、ほぼすべてこの一点です。

1-2. 「みなし残業(固定残業代)」とは別の制度

実務で起きやすい混同が、みなし残業との取り違えです。名前は似ていますが、扱っているものがまったく違います。

事業場外みなし労働時間制 みなし残業(固定残業代制)
根拠 労働基準法38条の2

明文の規定はない(37条の割増賃金の支払方法として判例上認められる)

何をみなすか 労働時間そのもの 何もみなさない。一定時間分の割増賃金を前払いする仕組み
対象 事業場外で働き、時間を算定し難い労働者 場所を問わない
想定を超えたら 通常必要な時間でみなし直す 超過分の割増賃金を追加で支払う

固定残業代は「労働時間の計算方法」ではなく「割増賃金の払い方」です。時間の計算は通常どおり必要になります。この違いを曖昧にしたまま「みなしだから残業代はいらない」と処理していると、後からまとめて請求される入口になります。

どちらを検討すべきかは、自社の困りごとが「労働時間を数えられない」のか「残業代の払い方を安定させたい」のかで分かれます。前者なら本記事の事業場外みなし、後者なら固定残業代の話です。

固定残業代の要件や最低賃金との関係は、別記事で詳しく整理しています。

関連記事:みなし残業(固定残業代制)の5つの要件

1-3. 裁量労働制(38条の3・38条の4)とも別の制度

もうひとつ、裁量労働制と取り違えられることもあります。こちらも別制度です。
事業場外みなし労働時間制は労基法38条の2。専門業務型裁量労働制は38条の3、企画業務型裁量労働制は38条の4で、それぞれ要件も手続きも違います。裁量労働制は「業務の遂行方法を労働者の裁量に委ねる」ことが出発点で、対象業務が法令で限定されています。対して事業場外みなしは、対象業務の限定はなく、「時間を算定し難いか」だけで決まります。
営業職について「裁量労働制を使えないか」と検討する会社もありますが、現行の専門業務型20業務に一般的な営業職は含まれていません(企画業務型の対象になりうるかは別論点です)。この点は次の2記事で扱っています。

関連記事:裁量労働制をわかりやすく解説(専門型・企画型の違い)

関連記事:裁量労働制の対象拡大はいつから?営業職への適用

2.  適用の2要件と、通達が示す「使えない3つの場面」

適用の可否は、次の2つを両方満たすかで決まります。

①労働時間の全部または一部について、事業場外で業務に従事したこと
②その事業場外労働について、労働時間を算定し難いこと

①はほとんどの外勤で満たします。争点は常に②です。

2-1. 通達が挙げる「算定できてしまう」3つの例

昭和63年1月1日基発第1号(改正労働基準法の施行について)は、事業場外労働であっても使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合は労働時間の算定が可能であり、みなし労働時間制の適用はないとしたうえで、次の3つを例示しています。

通達が挙げる場面 現代に置き換えると

何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる

上司やリーダーが同行する訪問・現場作業

事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している 会社スマホやチャットで、外出中も随時具体的な指示が飛ぶ

事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る

朝礼で訪問先と順路と帰社時刻を指定される外回り

この通達は1988年のものです。無線やポケットベルという言葉に時代を感じますが、判断の骨格は変わっていません。むしろスマートフォンとGPSが当たり前になったことで、②に当たる会社は当時より増えているはずです。

2-2. 在宅勤務・テレワークの場合

テレワークについては、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月25日改定)が、事業場外みなしを使える条件を整理しています。ポイントは2つで、次のいずれにも該当しないことが必要です。

  • ・情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態とされていること
  • ・随時、使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていること

ガイドラインは、回線が常時接続され、労働者が自分の意思で通信を切断できず、使用者の指示に即座に応じることが義務づけられている状態を「常時通信可能な状態」に当たるとしています。逆に、勤務時間帯に自分の判断で離席できるなら、通信機器を持っていること自体は問題になりません。
「常に電源を入れていること」と「呼ばれたら即座に応答する義務があること」は別です。ここを混同すると、判断を誤ります。

3. 最高裁2判例で見る、判断の分かれ目

最高裁2判例で見る、判断の分かれ目.png

このテーマで押さえるべき最高裁判決は2つです。10年の間隔を置いて出た2件を並べると、判断の軸がはっきりします。

3-1. 阪急トラベルサポート事件(最高裁第二小法廷 平成26年1月24日判決)

海外旅行の添乗員が、実労働時間に基づく割増賃金を求めた事案です。派遣元は、添乗業務を事業場外みなしの対象として扱っていました。

最高裁は、みなしの適用を否定しました。理由として挙げられたのは、次の3点です。

  • ・ツアーの旅行日程が会社によってあらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自分の判断で決められる範囲が限られていたこと
  • ・会社が添乗員に携帯電話を持たせ、常時電源を入れて応答できる状態にしておくよう指示していたこと
  • ・添乗日報によって詳細な報告を求めており、その内容の正確性を、ツアー参加者のアンケートや現地手配会社とのやりとりで確認できたこと

つまり「業務の前・最中・後」の3つの局面すべてで会社の関与があり、労働時間を把握できたと判断されました。会社側敗訴です(平成24年(受)第1475号、集民246号1頁)。
この判決以降、実務では「携帯電話を持たせたらみなしは使えない」と受け止められることが増えました。ただ、これは判決の一部を切り取った理解です。

3-2. 協同組合グローブ事件(最高裁第三小法廷 令和6年4月16日判決)

外国人技能実習制度の監理団体に雇用された指導員が、事業場外みなしの適用は無効だとして未払割増賃金を請求した事案です。指導員の業務は、実習実施者(受入企業)への月2回以上の訪問指導、技能実習生の送迎、生活指導、トラブル時の通訳など多岐にわたり、九州全域を自家用車で移動していました。

一審(熊本地裁 令和4年5月17日)も控訴審(福岡高裁 令和4年11月10日)も、「労働時間を算定し難いとき」には当たらないとして、みなしの適用を否定していました。決め手は業務日報です。日報の記載内容は実習実施者に問い合わせて確認できるし、会社自身が日報を前提に残業手当を支払っていた----だから労働時間は算定できた、という理屈でした。
最高裁は、この原審を破棄し、福岡高裁に差し戻しました。判断枠組みそのものは阪急トラベルサポート事件を踏襲し、「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等」と「使用者と労働者との間でされる業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等」を考慮するとしたうえで、原審の評価が不十分だと指摘しています。

破棄の理由は、大きく3つでした。

  • ・指導員の業務は多岐にわたり、訪問先が定まっていたとしても、勤務状況を把握することが容易であったとは直ちにいえない
  • ・指導員は自らスケジュールを管理し、随時具体的な指示を受けたり報告をしたりすることもなかった
  • ・日報の内容を実習実施者等に確認できるという点について、原審は問い合わせる方法を一般的に指摘するだけで、確認の現実的な可能性や実効性が具体的に明らかでない。また、会社が残業手当を支払っていた事実だけでは、日報の正確性が客観的に担保されていたとは評価できない

補足意見で林道晴裁判官は、テレワークや在宅勤務など事業場外労働が多様化するなかで定型的な判断は難しく、個々の事案の具体的な事情に的確に着目した判断が必要だと述べています。

3-3. 2判例の判断要素を並べる

同じ枠組みを使いながら結論が分かれた理由は、要素ごとに見ると整理できます。

判断要素 阪急トラベルサポート事件(みなし否定) 協同組合グローブ事件(差戻し・余地あり)
業務の性質・内容

ツアー日程があらかじめ具体的に確定。裁量の幅が狭い

訪問指導・送迎・生活指導・通訳と多岐。定型化されていない

スケジュールを誰が組むか

会社が確定した日程どおり

本人が自ら管理

外出中の指示

携帯電話を常時応答可能な状態にするよう指示

随時の具体的な指示はなかった

報告の方法

添乗日報で詳細な報告

業務日報を提出

報告内容の裏付け

参加者アンケート・現地手配会社の書面で確認可能

「確認できる」とされたが、現実的な可能性・実効性が不明

報告を前提とした支払い

日報をもとに残業手当を支払っていた(それだけでは正確性の担保にならないと判断)

結論

「算定し難いとき」に当たらない(会社側敗訴)

原審を破棄し差戻し。適用の余地を残した

分かれ目は「報告書があるかどうか」ではなく、その報告の正確性を会社が現実に検証できているかでした。日報を出させているだけでは、労働時間を算定できていることにはならない。逆に、日報を訪問先の記録やシステムのログと突き合わせて検証しているなら、算定できていると評価されやすくなります。

3-4. スマホやGPSを持たせていたら、それだけでアウトなのか

一律にアウトではありません。グローブ事件の最高裁は、通信手段があること自体を理由に否定してはいません。

ただし、これは「持たせていれば安心」という意味でもありません。判断されているのは道具の有無ではなく、その道具を使って実際に何をしているかです。GPSの位置情報を勤怠の集計に使っている、営業支援システムの訪問時刻を実労働時間として扱っている、といった運用があれば、会社は労働時間を算定できていることになります。

自社の状況を測るなら、「持たせているか」ではなく「その記録を労働時間の管理に使っているか」を確認するほうが実態に近づきます。

4. 職種・場面別に見る「使える/危ない」の目安

判断要素を職種に当てはめると、次のような見取り図になります。あくまで典型例であり、同じ職種でも運用次第で結論は変わります。

職種・場面 業務の性質 指示・報告の実態 目安
ルート営業(訪問先・順路が固定) 定型的。1日の所要時間が読める 日報を上長が取引先の記録と突合

⚠ 使いにくい

新規開拓の外勤営業

訪問先も順路も本人裁量 報告は結果のみ。随時の指示なし

○ 余地あり

訪問介護

訪問介護計画書でサービス提供時間・内容が分単位で確定

実績記録票で提供時刻を管理

⚠ 使いにくい

修理・保守の巡回

依頼が随時入る 配車センターから次の現場を随時指示

⚠ 使いにくい(通達②に該当)

添乗員

ツアー日程が確定 常時応答を指示、日報を突合

✕ 判例で否定済み

技能実習の指導員

訪問指導・送迎・通訳と多岐

本人がスケジュール管理、随時の指示なし

△ 余地を残した(グローブ事件)

在宅勤務

業務内容による

常時通信可能な状態でなく、随時の具体的指示もない

○ 2要件を満たせば余地あり

出張(宿泊を伴う)

移動・宿泊を含み行動の把握が困難

現地での行動は本人裁量

○ 余地あり

「使いにくい」に該当したからといって、法令違反というわけではありません。その職種に事業場外みなしを適用している場合に、未払残業代を請求されたときの反論が難しくなる、という意味です。

5. みなし時間の決め方は3通り──残業代がいくら変わるか

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「みなす」時間の決め方は、労基法38条の2に3通り用意されています。どれを選ぶかで残業代が大きく変わります。

5-1. 3つの方式

根拠 内容 労使協定
①所定労働時間みなし

38条の2第1項本文

所定労働時間労働したものとみなす

不要

②通常必要時間みなし 38条の2第1項ただし書 その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす 不要
③労使協定みなし

38条の2第2項

労使協定で定めた時間を「通常必要とされる時間」とする

必要

原則は①です。ただし、その業務を遂行するには通常所定労働時間を超えて働くことが必要になる場合には、①ではなく②を使わなければなりません(38条の2第1項ただし書)。「所定労働時間でみなしておけば残業代が出ない」という発想で①を選ぶのは、条文に反します。

②は「通常必要とされる時間」を会社が決めることになるため、労使で争いになりやすい。そこを労使協定で確定させるのが③です。

5-2. 3方式で残業代はいくら変わるか

数字で見ます。前提を次のように置きます。

  • ・所定労働時間 1日8時間(9:00〜18:00、休憩1時間)
  • ・月の所定労働日数 20日、月平均所定労働時間 160時間
  • ・基本給 30万円(諸手当なし)
  • ・1時間あたりの賃金 300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円
  • ・時間外割増単価 1,875円 × 1.25 = 2,343.75円 → 2,344円

(円未満の端数は50銭未満切捨て・50銭以上切上げ。昭和63年3月14日基発第150号)

  • ・外回りの実態を調査したところ、この業務の遂行には通常9時間30分かかっていた

方式①:所定労働時間みなし(8時間)

  • ・時間外労働:0時間
  • ・1日あたりの割増賃金:0円
  • ・月額:0円

ただし、実態が9時間30分だと分かっているなら、この処理は38条の2第1項ただし書に反します。差額を請求されたときに支払う可能性が残ります。

方式②:通常必要時間みなし(9時間30分)

  • ・時間外労働:9.5時間 − 8時間 = 1.5時間
  • ・1日あたり:2,344円 × 1.5時間 = 3,516円
  • ・月額:3,516円 × 20日 = 70,320円

方式③:労使協定みなし(9時間と定めた場合)

  • ・時間外労働:9時間 − 8時間 = 1時間
  • ・1日あたり:2,344円 × 1時間 = 2,344円
  • ・月額:2,344円 × 20日 = 46,880円

方式③は②より月23,440円安く済みますが、実態が9時間30分なのに9時間と協定するのは、協定内容が実態から乖離しているという指摘を受ける余地があります。労使協定は「実態より短く設定するための道具」ではなく、「実態について労使で合意して確定させるための道具」です。
なお、協定で定めた時間が1日8時間を超えるときは、その超過分について36協定の締結・届出も別に必要になります。

6. 見落としやすい4つの落とし穴

制度の要件はクリアしていても、運用面で漏れやすい論点が4つあります。

6-1. 深夜割増・休日割増は、みなしとは無関係に発生する

事業場外みなし労働時間制が扱っているのは「労働時間を何時間と数えるか」だけです。深夜労働(22時〜翌5時)と法定休日労働の割増賃金は、労働基準法37条にもとづき、時間帯・曜日に着目して発生します。みなしの適用によって消えるものではありません。

計算例:22時から24時まで顧客対応をした日

  • 深夜割増の単価:1,875円 × 0.25 = 468.75円 → 469円
  • 深夜割増賃金:469円 × 2時間 = 938円

この938円は、みなし時間が8時間でも9時間でも、別途支払いが必要です。法定休日に事業場外労働をさせた場合の35%増しも同じ扱いになります。

6-2. 休憩・年次有給休暇・安全配慮義務は変わらない

みなしの対象になるのは労働時間の算定だけです。休憩(労基法34条)、年次有給休暇(39条)、労働時間の上限規制、安全配慮義務は、これまでどおり適用されます。「直行直帰だから休憩は本人任せ」という運用は、一斉付与の原則の適用除外を労使協定で外していない限り、整理が必要になります。

6-3. 「みなしだから労働時間を把握しなくてよい」は誤り

ここは見落とされやすいところです。

平成29年1月20日基発0120第3号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、みなし労働時間制が適用される労働者を適用対象から除いています。この一文だけを見て「把握義務はない」と読んでしまう例があります。

しかし2019年4月施行の労働安全衛生法66条の8の3は、事業者に対し、労働者の労働時間の状況をタイムカードやパソコンの使用記録などの客観的な方法その他の適切な方法で把握することを義務づけました(労働安全衛生規則52条の7の3)。この義務の対象からは、みなし労働時間制の適用者は除かれていません。長時間労働者への医師の面接指導につなげるための規定だからです。

「賃金計算のための労働時間」は算定し難くても、「健康確保のための労働時間の状況」は把握しなければならない。この2つは別の話として整理しておきます。

なお、ここで残した記録が働く場面は健康確保だけではありません。みなしの適用が争われて否定されれば、その先は実際の労働時間をめぐる争いになります。労働時間の状況を客観的な方法で残していれば、そこで会社が示せる資料になります。何も残していなければ、請求された時間数に対して出せるものがありません。

6-4. 移動時間の扱いは別問題

直行直帰の移動時間が労働時間に当たるかどうかは、事業場外みなしとは別の論点です。みなしを適用している時間帯の中に移動が含まれていれば、その日の計算としてはみなし時間に含まれます。一方、みなしを適用していない日の移動や、資材の運搬など具体的な業務が命じられている移動については、労働時間性が個別に判断されます。

7. よくある質問(Q&A)

Q1. 事業場外みなし労働時間制と、みなし残業(固定残業代)は何が違いますか。
A. 事業場外みなし労働時間制は労働基準法38条の2にもとづき「労働時間を何時間と数えるか」を決める制度です。みなし残業(固定残業代)は、一定時間分の割増賃金をあらかじめ支払っておく賃金の支払方法で、労働時間の計算は通常どおり必要になります。両者は併用されることもありますが、別の話です。

Q2. 営業社員に会社スマートフォンを持たせていたら、事業場外みなしは使えませんか。
A. 持たせているだけで使えなくなるわけではありません。協同組合グローブ事件の判決からは、通信手段の存在だけで一律に否定する立場は読み取れません。問題になるのは、外出中に随時具体的な指示を出しているか、即時応答を義務づけているか、位置情報や訪問記録を労働時間の管理に使っているか、といった運用の中身です。

Q3. 在宅勤務(テレワーク)に事業場外みなしを使えますか。
A. 厚生労働省のテレワークガイドライン(令和3年3月25日改定)は、①情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態とされていないこと、②随時、使用者の具体的な指示にもとづいて業務を行っていないこと、の両方を満たす場合に適用できるとしています。勤務時間帯に本人の判断で離席できる状態なら、パソコンを立ち上げていること自体は問題になりません。

Q4. みなし労働時間制を採用していれば、残業代は発生しませんか。
A. 発生します。みなし時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えれば、超過分の割増賃金が必要です。加えて、深夜労働と法定休日労働の割増賃金は、みなしとは無関係に発生します。事業場内で働いた時間も別に算定して加算します。

Q5. 労使協定は必ず必要ですか。届出はどうなりますか。
A. 労使協定が必要なのは、みなし時間を労使協定で定める方式(38条の2第2項)を採る場合です。所定労働時間みなし・通常必要時間みなしだけなら協定は不要です。協定を結んだ場合、定めた時間が1日8時間を超えるときは様式第12号で所轄労働基準監督署長に届け出ます。8時間以下なら届出は要りません。

Q6. 直行直帰の日に、帰社して1時間だけ事務作業をした場合はどう計算しますか。
A. 事業場外のみなし時間に、事業場内の実労働時間1時間を加算します。みなし9時間の会社なら、その日は10時間の労働時間として扱い、8時間を超える2時間分の割増賃金を支払います。「みなしだから9時間」で止めると、1時間分が未払いになります。

8. 「勤労の獅子」でできること

事業場外みなし労働時間制でつまずきやすいのは、制度の要件そのものよりも、日々の集計です。みなし時間と事業場内の実労働時間を分けて記録し、深夜と法定休日の時間帯だけを拾い出し、月次で合算する----これを手作業で回すと、担当者が代わったところで崩れます。
「勤労の獅子」では、事業場外みなしの適用日と通常勤務日を別の勤務区分として設定できます。直行直帰の日と帰社した日で集計ルールを切り替え、みなし時間と事業場内の実打刻を合算したうえで、深夜帯・法定休日の時間だけを自動で切り出す----そんな設定も可能です。労働安全衛生法66条の8の3が求める労働時間の状況の把握についても、みなし適用者を含めて記録が残ります。
設定するのは専任のコンサルタント。「うちの営業は直行直帰と出社が混在していて、集計ルールが職種ごとに違う」という現場ほど、丸ごとお任せいただく意味が出てきます。

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まとめ

  • 事業場外みなし労働時間制(労基法38条の2)が使えるのは、「労働時間を算定し難いとき」だけです。事業場の外にいることは理由になりませんみなし残業(固定残業代)とも、裁量労働制(38条の3・38条の4)とも別の制度です。用語の混同が、そのまま運用の誤りにつながります
  • 協同組合グローブ事件(最判令和6年4月16日)は、日報の存在だけでは労働時間を算定できたことにならないと示しました。分かれ目は、報告の正確性を会社が現実に検証できているかです----ただし同判決は破棄差戻しであり、みなしの適用が認められたわけではありません(差戻審の判断は本記事執筆時点で公表されていません)
  • スマートフォンやGPSを持たせているかではなく、その記録を労働時間の管理に使っているかで判断が変わります
  • 深夜割増・休日割増、事業場内労働との合算、労働安全衛生法66条の8の3にもとづく労働時間の状況の把握は、みなしを適用していても必要です

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